個人からの寄付をもとに創設された「移民・難民支援基金」は、日本国内の難民や外国にルーツをもつ人々の生活環境の改善を目的に創設された「オリジナル基金®️」です。本基金の助成対象団体として採択された、大阪を拠点に難民支援を行うNPO法人RAFIQの代表理事・田中惠子様と理事・誉田由都子様、そして担当した弊財団のチーフプログラムオフィサー・五十嵐航がお話ししました(以下、文中敬称略)。
「難民・移民支援団体の力になりたい」
――移民・難民支援基金は、個人の志を生かしたパブリックリソース財団の「オリジナル基金®︎」ですが、どういった経緯で創設されたのでしょうか。
五十嵐 この基金は、ご自身でも難民・移民の支援活動にも関わっている個人の方が、各地の支援団体の力になることで難民・移民の方々の生活環境を改善したいという気持ちから創設されたものです。NPO法人RAFIQのように難民の方々の支援を行う団体、そして、日本に長く暮らしている移民の方々を支援している団体を対象に幅広く助成を行っています。
基金設立者の方には、支援団体に直接寄付するという選択肢もあったかもしれません。しかし、全国の支援団体から意義ある活動をしているところを選び、ご自身がまだ知らない団体も含めて幅広く寄付を行き渡らせたいというご希望で、弊財団に基金創設のご相談がありました。
田中 私たちNPO法人RAFIQは、本基金の2019、2020、2022年度の助成対象団体として採択されました。この助成金は、難民支援の現場でのニーズにあわせて幅広く使うことができたので、本当に助かりました。
RAFIQは20年ほど前に、アフガニスタン難民の方と出会ったことから活動を始めた団体です。団体名はアラビア語・ペルシャ語で「友だち」という意味で、「同じ地球に生まれたんだから、同じ人として友だちになりたい」という思いのもと、日本に逃れてきた難民を支援しています。
私も含めてメンバーは無償ボランティアなので人件費はかかりませんが、事務所兼シェルターの維持費、難民申請者の方々の生活支援などに、どうしてもお金が必要です。会費と寄付をベースに助成金に応募して運営していますが、いつも資金には頭を悩ませています。
五十嵐 RAFIQは今年3月にNPO法人格を取得されるまでは任意団体として活動されていたので、ファンドレイジングはより大変だったのではないかと思います。各地で難民支援をしている団体のなかには、手弁当で活動をされているところがたくさんあります。逆に言えば、そういった団体の支えによって日本の難民支援が成り立っているのが現状です。ですから、本基金では法人格のない任意団体も含めて幅広く助成対象としています。
家もなく、就労もできない難民申請者
――RAFIQでの支援活動の内容について教えていただけますか。
田中 現在の活動は大きく分けて4つです。まず難民申請の手続きや裁判も含めた「法的支援」、住居や病気、生活全体をサポートする「生活支援」、そして「市民啓発」と「政策提言」になります。
日本で難民申請者がどんな状況に置かれているのかがあまり知られていないので、地域のイベントに出展して情報発信をしたり、関心を持ってくださった方向けに「難民初級講座」を開催したりといった市民啓発にも力を入れています。講座の参加者からRAFIQの会員になって活動に参加している方もたくさんいるんですよ。
また、私たちは日本で難民を支援する団体のネットワーク組織「NPO法人なんみんフォーラム」に関西から唯一加盟している団体です。このネットワークを通じて日本に来た難民がともに安心して過ごせる難民保護の仕組みを実現できるよう政策提言も行っています。
五十嵐 難民申請者の方は、どのようにしてRAFIQの支援とつながるのでしょうか。
田中 活動を始めた当初は、主に出入国在留管理庁(入管)の施設に収容されている方への面会支援を行っていたので、その方たちが「仮放免」といって一時的に外に出て生活する際のサポートをしていました。そこから、支援を受けた方からの口コミなどでRAFIQの存在が知られるようになり、来日した難民申請者から直接相談が来るようになっていきました。
関西にはほかに難民に限定した支援団体がないので、東京の支援団体から相談をいただくこともあります。あと、今年に入ってからは大阪入管から聞いたという難民申請者から連絡が来ることが増えましたね。入管とRAFIQの間に提携関係があるわけではないのですが、支援が必要な方に入管窓口でRAFIQのことを紹介しているようです。
五十嵐 難民申請者の方への法的支援について教えていただけますか。
田中 難民申請者はさまざまな理由による迫害から自分の命を守るためにやむを得ず日本に逃げて来るのですが、まず難民認定のための申請自体が大変なんです。申請書をどうやって入手するのかに始まり、十数ページにわたる書類は記入方法のマニュアルもなく、入管職員が丁寧に教えてくれるわけでもないので非常にわかりにくい。書類は多言語に対応していますが、対応していない少数言語の難民申請者もいます。
それに、日本の場合は難民であることの立証責任は本人にあるとされているので、申請書だけでなく自分が難民であるという証拠も集めて出さなければいけません。
五十嵐 日本に逃げてきたばかりの人に、そうした手続きが一人できるのかというと……
田中 ほぼ無理ですよね。RAFIQには法的支援を担当するメンバーがいて、申請書類の書き方を教えたり、証拠集めや審査のインタビュー準備を手伝ったりしています。また、難民不認定の取消し訴訟なども弁護士と連携しながらサポートしています。
五十嵐 生活支援についてはどうでしょうか。
田中 難民申請者のなかには、支援がないと困窮してホームレス状態になってしまう人たちが多くいます。どういうことかというと、難民申請をするとまず4つほどのグループに振り分けられます。この振り分け期間に2ヶ月ほどかかるのですが、その間は住民登録もできないし在留カードも作れません。ということは、働くことが認められないのです。
その後、6ヶ月の就労可能な在留資格を取得できる人もいますが、全体の割合としては本当に少なく、ほとんどの人は働けない短期の在留資格しかもらえません。健康保険にも入れず、生活保護のような公的福祉も受けられない。身分証明書になるものがないので家も借りられません。
政府から委託を受けた難民事業本部(RHQ)に申請すると一日1600円の生活費支援を受けられる場合もあるので、その申請もRAFIQで手伝っていますが、やはり受給決定までに数ヶ月かかる人もいます。また、RHQの支援を受けられない難民申請者もいるのです。
誉田 RAFIQでは、そうした人たちへの住まいや生活の支援をしています。また、医療に関しては健康保険には入れない人がほとんどなので、医療費が払えず病気やケガをしてもなかなか病院に行けません。そういうときは、無料低額診療事業といって困窮している人を無料や低額で診てくれる病院を探して、受診できるようにRAFIQで手配したりしています。
「使いやすい助成」は基金設立者の希望
――支援を必要とする方たちが多くいるなか、人員的にも資金的にも厳しい状況だと思いますが、本基金からの助成はご活動にどんな成果をもたらしたのでしょうか。
田中 この基金には、難民の方々の支援に直接関わるところほぼ全部をカバーしてもらいました。
何より大きかったのは、入管の収容施設にいる方が仮放免で一時的に外に出る際の保証金です。保証金に使える助成金は、この基金以外にはありません。保証金は人により異なりますが、高い場合には数十万円ほどが必要です。私たちにはそんな資金はないので、これまではカンパを募るなどして用意するのが大変だったのです。
五十嵐 保証金というのは、基本的には「戻ってくるお金」なので、一般的な助成金の使途としてはNGになっているところがほとんどです。しかし、現場では非常に必要とされているものですから、本基金では、あえて制限をかけませんでした。これは、助成団体にとって使いやすい助成をすることが最終的には難民の方々のためになるという、基金設立者の強い意向でもありました。
誉田 難民支援というのは予想が立てられない部分があります。たとえばコロナ禍では新規の難民申請者が一気に減りました。また、単身の難民申請者の支援を想定して予算を組んでいても、子どもを連れた家族の支援が必要になることもあります。
一般的な助成金の場合は、申請時に目的と使途を明確にして予算書を提出しなくてはいけませんので、申請した内容と実際のニーズが違ってきてしまった場合に申請内容にしばられて悩んでしまうこともあります。その点、この基金は状況に応じて柔軟に使わせていただけました。
五十嵐 私たちもご応募の際には予算書を作ってもらいますが、その助成金の許される範囲であれば、相談をしながら柔軟に使ってもらえるようにしています。弊財団と助成対象団体でしっかりコミュニケーションをとりながら助成を進めることで、結果として支援団体に助成金を有効に活用してもらい、寄付者にも満足していただける基金の形が実現できたと感じています。
基金がなければ裁判を闘えなかった
田中 この助成期間中に印象的だった支援ケースとしては、今年4月に難民認定されたウガンダ出身のレズビアンの女性がいます。ウガンダは今年「反LGBTQ法」ができ、同性愛者が終身刑になる可能性があるほど、LGBTQに厳しい国なのです。彼女は迫害から逃れて2020年2月末に来日したのですが、一度は難民不認定になりました。その後、審査が不十分であるとして処分の取消訴訟を起こして勝訴し、来日から3年以上たってようやく難民として認められました。
五十嵐 その間、RAFIQで支援を続けてきたのですね。
田中 はい。彼女の仮放免の保証金を出して住居を探し、病気になった際には無料低額診療事業を実施している病院に連れて行ったりもしました。難民不認定になった際には弁護士を探して、法的支援のメンバーや通訳と一緒に、出身国情報や証拠集めやインタビューの練習など、さまざまな訴訟のサポートをしました。
しかし、難民申請者のなかには生活に困窮してしまって、こうした裁判をやりたくてもできない人たちもたくさんいます。彼女の場合は、この基金の助成があったからこそ裁判を闘ってきちんと難民として認められることができたんです。
2019年度は支援した9名が難民認定
五十嵐 こうした活動に、基金設立者の思いが込められた助成金を使っていただけていることは、本当にうれしいことです。
特に助成を開始した2019年度に、RAFIQの支援を受けた3家族9名の方が難民認定されたことが強く印象に残っています。日本の難民認定率は海外と比べて桁違いに低く、この年は44名しか認定されていませんでしたので、そのうちの9名というのは本当にすごい支援の成果だと感じます。
こうした成果を受けて、基金設立者も「寄付をした甲斐があって本当によかった」と大変喜んでくださっていました。この助成期間中にRAFIQではNPO法人格もとられて、団体としてもステップアップされていきました。今年度で助成期間は満了となりますが、今後のご活躍も心から応援しています。
田中 ありがとうございます。今年は新規の難民申請者が本当に増えていますが、地域の団体等と連携を強化しながら、一人でも多くの方が難民認定をとって安心して生活できるように支援していきたいと思っています。
プロフィール
〈中央〉NPO法人RAFIQ
代表理事 田中 惠子 様
〈右〉理事 誉田 由都子 様
〈左〉公益財団法人パブリックリソース財団
チーフプログラムオフィサー 五十嵐 航
NPO法人RAFIQ>http://rafiq.jp/
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