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【基金実例紹介①】「子どもの貧困連鎖を断ち切りたい」企業の想いを生かした先駆的な基金

2017~2022年度にかけて子どもの貧困解決に取り組む全7団体に助成を行い、その事業開発を支援してきた「大和証券グループ 輝く未来へ こども応援基金」について、大和証券グループ本社の黒須仁美様に、担当した弊財団のプログラムオフィサー渡辺裕がお話をおうかがいしました(以下、敬称略)。


「事業開発支援」というチャレンジ


――まずは、この「大和証券グループ 輝く未来へ こども応援基金」(以下、こども応援基金)創設のきっかけについて教えてください。


黒須 この基金は、弊社の執行役社長である中田誠司が2017年に就任した際に創設したものです。それまでも中田は個人的に児童養護施設に物品寄付を行っていたのですが、子どもの貧困は大きな社会的課題であるという認識のもと、企業としてこの課題に取り組むことを決めました。そこで立ち上げたのが「夢に向かって! こどもスマイルプロジェクト」で、本基金はそのプロジェクトのひとつになります。

 子どもの貧困に企業としてどう取り組むかを考えるにあたっては、やはり専門的な知見のバックアップが必要でしたので、パブリックリソース財団(以下、PRF)にお声掛けして一緒にどんなことができるのかを考えていただいたことが本基金創設のきっかけになりました。


渡辺 弊財団にご相談をいただき、「子どもの貧困の連鎖を断ち切りたい」という想いを聞かせていただいたところから始まりました。そこから、この分野でどのような法律や条例があり、そうした制度の狭間にある課題は何か、それぞれどういった支援団体が活動しているのかについて弊財団で調査を進めました。

 こうした調査から見えてきたものを、どう「大和証券グループ」という冠にふさわしい基金にしていくかというところで、子どもの貧困問題解決に取り組む団体の「事業開発支援」への助成という提案をさせていただきました。これは、ほかにはあまり例のない本基金の特徴ですが、将来の社会を担う意義ある事業体に対して投資をして、その成長を後押しするという証券会社の役割とも非常にマッチするのでないかと考えたのです。


黒須 本基金では、子どもの貧困解決に取り組む各支援団体の皆様が行われている取り組みを事業化して、全国に横展開していけるよう支援する形をとりました。特に弊社が重点を置いていたのは、寄付が一過性の支援に終わることなく、いかに持続的で効果的なインパクトを上げられるかです。

 本基金では3年間の継続助成を通じて、各団体の取り組みの事業化、横展開、さらに収益化までPRFに伴走支援をしていただき、その結果として各団体の成長に繋がる非常にいい取り組みになったと思っています。


渡辺 本基金の助成対象となったのは、平均10年以上の子ども支援活動経験をもち、子どもの貧困解決に向けてそれぞれの領域でのスタートアップ段階を終え、事業化や方法論のマニュアル化の段階に入っている団体でした。そういう意味では、非常に先駆的でチャレンジングな基金でしたが、その意義を理解して取り組んでいただいたことに、御社の「本気度」を感じました。



専門的な知見や伴走支援によるフォロー


――基本的な話になりますが、「企業基金」を創設する場合、企業とPRFでどのように連携して進めていくのでしょうか。


渡辺 まずは「〇〇がやりたい」という企業様の想いを伺い、さらに、その分野でどういう支援や助成が足りていないのかなどをリサーチして、それらがうまくマッチするような企画を弊財団から提案させていただきます。この「提案」こそが、弊財団が間に入ることの一番のメリットと言える部分ではないでしょうか。

 その提案に対してご賛同いただけたら、基金の募集要項作成、第三者の審査委員会の組織、公募などを進めていきます。なかには、本基金のように助成対象団体に対しての資金的支援だけでなく、必要に応じて非資金的な支援(アドバイスや進捗管理などの伴走支援)を行うこともあります。

 基金を通じて助成した事業内容や成果は報告書に取りまとめて企業様にお伝えして、フィードバックをいただく流れになります。

 

黒須 今回、PRFとご一緒させていただいてよかった点のひとつは、弊社だけでは得ることのできない専門的な知見をPRFからいただくことができたことです。ときには、社内からさまざまな意見が出てくることもありますが、その都度、渡辺さんに相談や問い合わせをさせていただきました。いつも丁寧にお答えくださり、社内調整に必要なエビデンスの部分でもフォローしていただいたので、大変助かりました。

 子どもの貧困に関しては、弊社でも個別に専門家の方にお話をうかがうなどして知見を高めていますが、PRFは多くの団体とのネットワークをお持ちですし、先ほどの話にも出たように法律の中でどのような動きがあるのかといった調査までは弊社だけでは手が及びません。そうしたバックアップがあったからこそ、本基金を順調に進めることができたと感じています。



SDGs推進への「本気度」を表す事例に


――本基金では2017年から2022年度の間に全7団体に助成をされていますが、その成果の一例として印象に残っているものを教えていただけますか。


黒須 どれも印象深いのですが、個人的に印象に残っているものの一つに、認定NPO法人Learning for All(LFA)への助成があります。LFAでは、今回の助成を使って支援者向けに行っていた研修内容をeラーニング化して、コンテンツとして開発されました。

 3年の間に子ども支援を行う全国36団体にeラーニングを提供して、5つの団体に教材の提供・教材利用のためのサポートを実施されています。また、オンライン研修も実施しました。助成はコロナ禍の前でしたが、結果的にそうした社会の非常事態にも対応できる体制が整いました。

 また、認定NPO法人PIECESは、団体が立ち上がってこれから成長していく段階での3年間の継続助成でしたが、助成後に「この助成が非常にその後の団体の活動の弾みになった」という感謝の言葉を団体からいただいたことを非常にうれしく覚えています


渡辺 認定NPO法人エデューケーションエーキューブも、成果が非常にわかりやすい事例だったと思います。福岡県内でフリースクールを運営されている団体ですが、採択された時点では県内1拠点だけでの活動でした。この助成によって、2拠点、3拠点目を増やし、さらにオンラインサービスの仕組みも整えて、いまでは県内最大規模のオルタナティブスクールになっています。







――基金を創設されての反響はいかがだったでしょうか?


黒須 本当に大きな反響をいただいて、助成へのご応募も多数ありました。私も選考委員の補佐として参加いたしましたが、一件一件の申請に強い想いが込められているのを感じていました。そのぶん選考には大変苦心をしたところがあります。

 実際に採択された団体の方から感謝の言葉を頂戴したり、周囲の方から「企業として、すごくいい取り組みをされていますね」と声を掛けていただいたりすることも多く、それは本当にこの基金を担当してよかったと思う瞬間でした。

 また、この基金は弊社がSDGs達成に本気で取り組むことを示す事例の一つにもなったと思います。



本基金をきっかけに支店や社員にも浸透


――「こども応援基金」の助成期間は満了しましたが、大和証券グループでは2020年度に「大和証券グループ未来応援ボンド こども支援団体サステナブル基金」(以下、サステナブル基金)も新たに創設されています。


黒須 このサステナブル基金は、コロナ禍をきっかけに創設したものです。コロナ禍で社会的に弱い立場にある子どもたちがさらに窮状に追い込まれていることを知り、弊社としても何とか支援したいと考えていました。そこで、まずは弊社が2020年6月に発行した社債「大和証券グループ未来応援ボンド」の手取金の一部を、PRFで行っていた子どもへの緊急支援に寄付するとともに、中長期的な支援を考えた基金創設に充てようということになりました。

 このサステナブル基金は、団体のレジリエンスを高めることに主眼を置いて設計していただきました。というのも、こども応援基金を通じて支援団体の取り組みの事業化や横展開を支援していくなかで、団体そのものの組織基盤強化の重要性を感じていたからです。こども応援基金を通じた普段からの渡辺さんとの関係性のなかで、「こういうこと考えているのですが……」というお話をすると即座にアンサーをくださるので、サステナブル基金創設まで非常に素早く動けたと思います。


渡辺 サステナブル基金は、助成対象団体に対して年間350万円程度の助成金を提供することを通じ、経済的に困難な状況下にいる子どもに対して、継続的に支援ができる事業モデル・組織モデルを構築することを目的とした基金です。

コロナ禍での緊急的な子ども支援に留まらず、「今後コロナのような感染症や大きな災害があったときでも、子どもたちを支えることができるように」という長期的な視点をもつ点が非常にユニークで、こども応援基金同様に他にはない基金となりました。そのほかにも、御社ではこども応援基金を通じたさまざまな広がりが生まれたとうかがっています。


黒須 はい。その一例として昨年、弊社は120周年を迎えましたが、記念事業として全国の支店がその地域にある子ども支援団体に寄付をするという取り組みを行いました。その事業のあとも、各地域の支店と子ども支援団体との間に交流が生まれています。

こども支援基金の取り組みについては、社内放送や社内報を通じて社員にも周知してきましたが、本基金を通じて全国の支店や社員一人ひとりにまで、子どもの貧困問題に対する「自分ごと化」が確実に浸透しているのを実感しています。

 ここから得た経験をもとに、今後も弊社が掲げるサステナブル経営の一環として、子ども支援や子どもの貧困問題解決に企業として取り組み続けていきたいと思っています。


プロフィール)

〈右〉株式会社大和証券グループ本社

経営企画部 サステナビリティ推進室

黒須 仁美 様


〈左〉公益財団法人パブリックリソース財団

プログラムオフィサー

渡辺 裕




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