HOME  > フォーラム・サロン:「アート&ヘルス基金」スタート記念 第1回サロンのご報告

公益財団法人パブリックリソース財団
第1回サロン
日時:2013年7月19日(金)

キーノートスピーチ
「アートはケアにどう関われるか」
財団法人たんぽぽの家 理事長 播磨靖夫

*この原稿は、2013年7月19日の播磨靖夫さんのスピーチを書き起こしたものです。

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今日のテーマは、「アートはケアにどう関われるか」ということですが、基本的な考え方は「アートを通して幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人の権利である」です。ここを出発点に展開したいと思います。

これをちょっと見てください。これは2年前に兵庫県の芦屋市立美術館で障がい者アートの展覧会の時に、関連企画で、私たちが赤ちゃんのための鑑賞ワークショップを開いたときの様子です。

赤ちゃんからの美術鑑賞ワークショップ

赤ちゃんからの美術館ワークショップ 芦屋市立美術博物館「アートピクニック展」


赤ちゃんがいっぱい来まして、みんなやる気満々です。ワークショップが始まる前から感動して泣いている赤ちゃんもいましたが、お母さんと赤ちゃんの目の輝き方が違いますね。

この間、ベネッセ教育総合研究所の調査が新聞に出ていました。
3歳から18歳の子どもの母親16,480人を対象にしたインターネット調査の結果が出ていたのですが、興味深いのは、音楽や芸術の活動をするよりも、もっと勉強してほしいという母親は40%で、4年前よりも8ポイント増えていたということです。
もう1つ興味深いのは、子どもと美術館に行くことがほとんどないという母親が78%、4年前は76%です。子どもと一緒に美術館に行くことがない母親が多いということですね。
この記事の中で武蔵野美術大学の三澤一実教授は、こういうことを言っておられます。

「目に見える学力をつけて正しい答えを導くことばかり重視されている。しかし、社会に出ると答えの出せないことがたくさんある。不可解なものをどのようにとらえるか、美術教育にはそれができる」

美術教育は今、学校教育の中でどんどん減らされていますね。一方、美術館はあちこちに増えていますが、社会に向かって開かれた美術館になっていないという問題もあります。

先週、鳥取大学の地域学部の学生1年生に「障がい者アートになぜ取り組むのか‐アートの可能性について」というテーマで話す機会がありました。それに対する感想文をもらいました。多くの学生が、美術館に行く機会はほとんどない、アートにこんな力があったのかとびっくりした、という感想を書いていました。 日本人は美術というもの、アートというものを遠くのものとして見ているということですね。

今の日本にはいろんな問題があります。いじめ、虐待、暴力、様々な問題があるわけですけども、つまるところ、想像する力(imagination)の欠如または創造する力(creation)が衰えているんじゃないかと思うわけです。そういう考え方で、この様なお母さんと一緒に子どもたちがアートを見て会話をする機会を作る必要があると思って、今あちこちで展開しております。

< 時代の変化 >

さて、今日の話のバックグラウンドについて話したいと思います。
私たちが生きている現代というのは、大きな時代の転換期にあるんじゃないかと思うんですね。今まではモノにおいて成長してきました。モノをいくら作るか、GNPがそうですね、モノの数、数量で豊かさをはかってきた。でもそういう時代は終焉を迎えているんじゃないか。それよりも知性や感性や魂の深さにおいて成長する時代に入っているのではないかと思うのです。いわゆる成熟社会というものですね。
それは社会構造の変化を見ればわかります。少子高齢化、人口減、とりわけ生産年齢の人口が減っている。資源エネルギーの問題もありますし、環境の負荷 も増大している。GNPで測る成長から、成熟社会にふさわしいもう1つの成長を模索するということが私たちの課題ではないかと思っております。


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写真

※播磨靖夫さんのプロフィール
財団法人たんぽぽの家 理事長、日本ボランティア学会副代表

新聞記者を経てフリージャーナリストに。障害のある人たちの生きる場としての「たんぽぽの家」づくりと、自己表現していくことのできる社会づくりを市民運動として展開。 現在、財団法人たんぽぽの家理事長のほか、社会福祉法人わたぼうしの会理事長、エイブル・アート・ジャパン常務理事、日本ボランティア学会副代表、アートミーツケア学会常務理事などを務める。主著に『知縁社会のネットワーキング』など。
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